「挙式は歴代御当主と同じ教会にて行います。フェルディナント様は宰相をお務めになってらっしゃいましたから、人脈がお広うございます。招待状を送る方々を、此方で出来る限りリストアップしておきますので、後日ご確認下さい。それから結婚後の御屋敷についてですが……。フェルディナント様?」
   フリッツの話を茫と聞いてしまい、呼び掛けられて傍と顔を上げる。
「ああ、済まない。屋敷のことだったな。ユリアは仕事を続けると言っているから、第2病院の近くが良いと考えている」
「……お仕事を続けられるのでしたら、ユリア様もお忙しいですね」
「週に一度二度の非常勤勤務医として働くと言っていた。子供が出来たら辞めるかもしれないと言っていたが……」
「そうですか。では第2病院付近でお探ししましょう」
「宜しく頼む」
   ずっと――、頭から離れなかった。
   私の身体は子供が出来るのかどうか――と。
   もし子供が出来ないとなったら、ユリアはどうするのだろう――と。



「具体的に話は煮詰まってきているのか?」
   クリスマスと新年はいつも本邸で過ごす。クリスマスにはユリアと過ごしたから、新年は本邸へと戻って来た。今日、ロイは臨時の会議が急に入って朝出掛けていったが、昼を過ぎて戻って来た。
「まだユリアの両親にも挨拶をしていないのに、色々決めてもならないだろう」
「それもそうか……。まあ、本人次第だと思うぞ、俺は」
   それに、どうも子供のことが気にかかっている。
   もし私の身体が子供を為せない身体だったら――と。
「ルディ? どうした?」
   不意に黙り込んだ私にロイが声をかける。いや――と応えると、何だ、とロイは尋ねた。
「……子供が欲しいという話になってな」
   ロイは私を見つめ、子供は嫌いではないだろう、と返した。
「ああ、勿論、私も子供は欲しいと思っている」
「それなら別に問題は無いだろう」
「……私に子供が為せるのか……とな」
   ロイが私を凝と見つめる。しかしロイはすぐに肩を持ち上げて、気にしすぎだ――と言った。
「先天的虚弱で子供の頃から発熱ばかりだった。身体は薬漬けのようなものだし、心臓と肺も移植している。……そう考えれば考えるほど、自信が無くなってしまってな」
「トーレス医師からそのような忠告を受けたことも無いのだろう?」
「ああ。だが……、私自身も今迄注意を払っていなかったことだ」
「そう気にすることでも無いのではないか? それに、万が一に子種が無かったとしても、子供の無い夫婦は沢山居る。ミクラス夫人とパトリックもそうだろう? ハインツ家も……。子供が欲しければ養子を迎えれば良い」
   ユリアは自分と私の子が欲しいのだと言っていた。もし仮に子供が出来ない身体だったとして、養子を迎えたいと言ったら、承諾してくれるだろうか。ユリアの言葉は少し引っかかる。
「それに俺達の代までロートリンゲン家が直系のまま続いてきたんだ。遺伝的には、子供についてはそう心配することも無いと思うぞ。旧領主家で俺達のような男二人の兄弟は珍しいとも言われているではないか」
「そうだが……」
「代々、女の子には恵まれなかったと聞いているが、男の子を為さなかった代は無いんだ。遺伝的には何の問題も無いと思うぞ」
   ロイは私を励ますようにそう言った。
   遺伝的には確かに問題は無いのだろう。問題は私の身体だということだけだ。



   ロイに励まされたものの、やはりどうにも気に懸かった。
   其処で別邸に戻る前に、トーレス医師の許に行って尋ねてみることにした。気が早いと言われるかもしれないが、どうしても気にかかる。
   もし私が子供を為せない身体だとしたら、ユリアはそれでも私と結婚してくれるだろうか。

「フェルディナント様。どうなさいました?」
   トーレス医師は私を見るなり、具合が悪いのか尋ねた。別件で訪れたことを告げると、トーレス医師は不思議そうな顔をする。
「何でしょう?」
   まどろっこしく話しても仕方が無い。単刀直入に聞いてみるしかない。
「私の身体は子供を為すことが出来るだろうか?」
   トーレス医師は一瞬眼を見張ったものの、表情を曇らせた。
「やはり無理なのだな……?」
「詳しいことは検査をしてみなければ解りませんが……、頻繁に高熱を出されていることを考えると難しいかもしれません」
   検査――か。
   それではっきりと解るのなら受けた方が良いのか。
   それともそれを今知ることによって、私はユリアを失うことになるのではないか……?

   だが――。
   気付いてしまった以上、ユリアを騙す訳にもいかない。
「……はっきり知りたい」
   解りました、とトーレス医師は言った。



   検査結果は、予想していた通り――だった。
   私には子種が全く無い。人工授精も不可能で、治療法も無い。
   子供は望めない――。
「フェルディナント様。生殖的に何も問題の無い方でも、近年では子供を為せないことが多いのです。あまり落ち込まれませんよう……」
「……解った。ありがとう」
   予想通りの結果だった。覚悟はできていた。
   それでも――、悲しくない筈が無かった。


[2010.9.19]
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