パーティが終わり帰宅してからすぐにユリアの許に連絡を入れたが、ユリアは電話にさえ出てくれなかった。メールを送っても返信もない。
連絡の取れない状態がひと月も続いた。
最悪な形で、俺達は終わりを迎えてしまったのかもしれない。
休暇が近付いていた。ハンブルクに行こうと思っていたが、この状態ではユリアは会ってもくれないだろう。
俺が何も話していなかったことを、酷く怒っているに違いない。
きちんと伝えておくべきだった。考えてみれば、俺が躊躇していただけで、話をする時はいつでもあった筈だ。
俺が――悪かった。
「フランツ、このひと月の間、黙ってみていたけれど何て情けない」
休暇が始まる前日、いつものようにリビングルームで父母と珈琲を飲んでいた時に、母はいきなりそう切り出して俺を叱咤した。
情けない?俺は何か母に失礼なことをしただろうか。
何のことか解らなくて、母を見返した。
「母上……?」
「あのパーティの日に全て聞きましたよ。貴方の行動は詐欺と言われても仕方の無いことです」
「詐欺……?俺が……?」
全て聞いたというのは、もしかしてあの後、ユリアから話を聞いたのか。
「自分のことを名乗らず、将官であることも告げず、これが詐欺と呼ばずにいられますか。可哀想にユリアさんはショックを受けていましたよ。でもそれを気丈に振る舞って……」
「ユリアが話したのですか……?」
母は鷹揚に頷いて、珈琲を一口飲んだ。眉根に皺が寄っている。これは相当機嫌が悪い。
「ユリアさんが来てからどうも貴方が貴方らしくない。これはおかしいと思って、私がユリアさんから聞き出したのです。彼女は恐縮しながら全て話してくれましたよ。ハンブルクで貴方と初めて出会い、その後帝都で再会したと……。あの場で貴方から全て打ち明け、ユリアさんに謝罪するならまだしも、貴方は逃げてばかりではありませんか」
母は俺の眼を見つめて説教を始めた。
だが、母の言葉は尤もなことだった。何も反論出来ない。クリスティンに強引に連れて行かれたとはいえ、俺はあの場でユリアに説明しなければならなかった。
「そのように覚悟が無いのなら、彼女に謝った上で別れて、クリスティンと一緒になってしまいなさい」
「母上……」
母の一言はきつかった。だが、それは自分の不甲斐なさが招いたことだということも充分に解っている。
「フランツ。クリスティンは諦める様子が無い。どうやらルートヴィヒがそう仕向けているようだからな。おそらくお前が結婚するまでは諦めないだろう」
それまで黙っていた父が俺を見据えて言った。
俺はどうすべきなのか――。
母の言う通り、ユリアと別れクリスティンと結婚した方が良いのか。
だが――。
だが、俺は――。
「今の状態は一番情けないですよ。どちらとも決められないのですから」
母が溜息混じりに言う。
否、もう俺の中で結論は出ている筈だ。
「クリスティンかユリアか。どちらを選ぶのもお前自身だ。この休暇の間に、よく考えて決断しなさい」
「……もう結論は出ています」
父は少し眉を上げて俺を見つめた。
俺の心は決まっていた。最初から――。
「俺はユリアをロートリンゲン家に迎え入れたい」
父は暫く俺を見つめた後、ふと笑みを漏らした。今の言葉はもしかして不適切だっただろうか。
「だったらフランツ、何をもたもたしているの。早く説得して迎えに行ってらっしゃい」
「え……?」
「あの時、彼女はロートリンゲン家となると自分には不相応だから、身を引くと言ったのよ」
「ユリアがそんなことを……」
「確かに重圧はあるし大変だけど、貴方と二人で乗り切るという道もあるということを伝えたわ。ユリアさんも貴方のことを想っているようだし……。でも泣きそうな顔で身を引くと言っていたの。私達が説得出来るのは此処までよ。あとは貴方次第でしょう」
「でもユリアと連絡が取れなくて……」
「電話やメールで何が伝わりますか。会って話してらっしゃい」