新入生と二年生達が片付けをしている間、今度は本当の歓迎のために、シャフィークと共に、買い出しに行く。
   酒と食べ物を買い込んでから戻ると、片付けは既に終わっており、後輩達は談笑していた。
「賑やかになりそうだ」
   買ってきたものをテーブルの中央に置く。未成年の新入生には、ソフトドリンクを渡し、全員に飲み物が行き渡ったところで、歓迎の言葉を告げ、乾杯する。

   今後の生活について話しながら、打ち解けていると、二人の性格が見えてくる。シャラフは良く言えば大人しい、率直に言えば少し暗い男のようだった。
   それに対してレオンは、明朗な、おまけに何か人を惹きつけるような男だった。先程のシャフィークとの対決でも感じたように、年長者に気を配ることを忘れない。それなのに、輪の中心に自然と居るような――それでいて嫌味の無い男だった。
   この男はきっと出世するな――と何気なく感じた。誰からも好かれる種の人間で、既にシャフィークはレオンのことを気に入ったようだった。


   酒が入ると、潰れる者が出て来る。シャフィークも欠伸を漏らし、先に休むと言い出した。酒に弱いアスアドも酔い潰れ、既に床にぐったりと横たわっている。
「そろそろお開きにしよう。ラーミー、アスアドをベッドに運んでやってくれ。残りの者は後片付けを」
   散らかったテーブルの上や床を片付け始める。のろのろと皆が動くなか、ただ一人てきぱきと動いていたのがレオンだった。シャラフも初日で疲労困憊なのか欠伸を漏らしているというのに、レオンは疲れも見せず後片付けを進める。
「ざっとで良いぞ。ゴミだけ集めたら休もう」
   はい、とレオンは応え、ゴミを纏めて入口に並べておく。明日の朝、捨てにいきますね――と言った。最後まで片付けをしていたのは、レオンと俺だけだった。他の者達は酒に潰れるやら疲労困憊やらで、もう動けない状態だった。
「ありがとう。俺達も休もう」
「はい。……すみません、少しだけ外に出て来て構いませんか?」
「もう10時だから寮長に見つかるとまずい。どうかしたのか?」
「廊下で構わないのですが……。電話をかけたくて……」
「電話? 家か?」
「ええ。先程からずっと弟が電話をかけてきているので……。おそらく俺のことを心配してかけてきてくれたのだと思いますが」
   そういえば、何度か携帯電話のバイブレーションが鳴っていた。誰の携帯だろうと思っていたが、レオンの携帯だったのか。
「それは悪いことをしたな。廊下だと声が響くから、此処でかけると良い。それとも聞こえるとまずいか?」
「いいえ。ただ、先輩方が起きてしまわないかと……」
「その点は大丈夫だ。一度寝室に入ってしまうと、皆寝入ってしまうからな。では俺も寝室に行くこととする」
「あ、構いませんよ。ムラト先輩」
   部屋の責任者は一日の出来事を記録に纏めなければならない。そのためのパソコンを持って移動しようとすると、レオンはそれを引き止めた。すぐ終わります――そう言って、部屋の片隅に移動する。

「テオ? もう寝ていたか?」
   レオンは電話越しにそう話し始めた。穏やかな声で、相槌を打ちながら、寮の部屋に居ることを告げる。
「祖父さんと祖母さんの言うことをきちんと聞くんだぞ。……ああ、休暇になったら帰るから。解ってる。約束する」
   また電話するよ、お休み――そう言ってレオンは通話を終えた。そして、すみません――と俺に向かって言いながら、携帯を収める。
   あまり立ち入ったことまで――と躊躇はあったが、レオンという男への興味から、探求心の方が勝った。
「レオン。御両親は……? あ、差し支えがあるようなら話さずとも構わないが……」
   大丈夫ですよ――と穏やかな様子で言いながら、レオンは両親とも事故で亡くなっていることを告げた。成程、それで祖父母と一緒に暮らしていたのか。
「弟はまだ小さいのか?」
「11歳です。7つ離れているので……」
「そうだったのか……」
   年齢の割に気が利いて確りしているように見えるのは、そうした事情からなのかもしれない。きっと家では弟の面倒をよく見ていたのだろう。
「俺の実家は此処からも近く、両親も健在だが、兄弟は居ない。男二人の兄弟とは珍しいな」
   よく言われます――とレオンは笑いながら言った。

   何だろう。このレオンは話していると親近感が湧く。人に対して悪い感情を持っていないことが伝わって来る。
   こんな男と会ったのは初めてだった。
   レオン・アンドリオティス――。

   それが、レオンとの出会いだった。


【End】


[2011.5.7]
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