出会い〜おまけ


   どうやら俺はロートリンゲン家とは縁があるようだった。旧領主層を毛嫌いしていた俺には不思議な縁のようにも思える。

「先日はどうもありがとうございました。ヴァロワ中将閣下」
   ハインリヒ・ロイ・ロートリンゲンが本部に配属された日の夕方、ちょうど皆が部屋を出払った時に、彼は側に来て言った。
「まさか君がロートリンゲン元帥閣下の息子とはな。軍人の道しか選べなかったのも、ロートリンゲン家だからか」
   はい、とロートリンゲン家の次男は肩を竦める。でも閣下のおかげで吹っ切れました――と彼は言った。
「名前を聞いておけば良かったとずっと後悔していました」
「何、いつか会えたことだ。実際、こうして会えたのだからな」
   ハインリヒ・ロイ・ロートリンゲンは笑ってそうですねと応える。そうした表情は兄のフェルディナント・ルディ・ロートリンゲンに本当によく似ていた。
「卒業する前日にもあの店に行ったんですよ。閣下ともう一度お会いできないかと思って」
「俺もなかなか忙しくてな。あれ以来、店には行っていないんだ」
「マスターも忙しいのだろうと仰ってました」
「あの日行ったのが一年ぶりだったからなあ……。そうだ。今度、君のお兄さんも交えてあの店に行かないか? 実は君のお兄さんには随分世話になっているんだ」
「兄に……ですか?」
「ああ。会議の資料の件でな。先程も此方に来てくれた」
   どうやら長男の方からは何の話も聞いていないらしい。誘っておいてくれと告げると、ハインリヒ・ロイ・ロートリンゲンははい、と嬉しそうに応えた。


   ロートリンゲン家の次男、ハインリヒ・ロイ・ロートリンゲンは噂に違わない能力の持ち主だった。1を知れば10を知るという人間だった。文武両道という言葉は、彼のために用意されているのかもしれない。
   そうした 彼の能力に誰もが脱帽した。羨望する者も居た。
   また、兄のフェルディナント・ルディ・ロートリンゲンの方も瞬く間に外務省で名を馳せていった。難解な交渉が成立した――と軍に情報が入るたび、彼の名前が付いてきた。

   俺からみれば、二人とも逸材だった。まったくロートリンゲン元帥がどのような教育を施したのか気になるほどに。
   いずれこの二人は帝国を背負って立つことになるだろう。二人とも長官たるに相応しいだけの技量を持っている。

   そのときに俺は少しでもこの二人を支えてやれるだろうか――。
   俺自身が彼等に、そうなってほしいと望んでいた。こんな二人が帝国を背負って立てば、きっと帝国の未来は明るくなる――と。
「……少し面白くなってきたかな」
   気の進まないままに入隊し、詰まらなく思っていた軍での日々が変わっていくのを俺は感じていた。


拍手お礼、再録[2010.1.21]